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afterstory オシロイバナの小心《1》

Author: 砂原雑音
last update Huling Na-update: 2025-05-30 21:17:34

恋をした。

一世一代の大決心で告白をしたけれど

貴方は返事をくれなかった。

私から見て貴方は

とても遠くに感じるくらい大人で

貴方から見たら、きっと私はとても小さな

存在だったのだろうと思う

どんなに私が走っても

年の差は埋まらないし

それでも走って走って

代わりに埋められる何かを探した

約束の

二度目の告白を果たすために

********************************

「ありがとうございます。

 私も好きですよ」

拍子抜けするほどにあっさりと

手に入ったらしい彼の心

二年越しの恋は

両想いで始まった……

のでしょうか?

温度が

足りない。

――――――――――――――――――

――――――――――

今年の梅雨は、どうやら空梅雨という予想らしい。

テレビの中で、気象予報士のお姉さんが「もしかすると」を強調して話していた。

初夏の気候が梅雨明け後の真夏を思わせる気温の高さで、既に日傘が手放せない。

六月に入っても週間天気予報はずっと晴れの予報だった。

「今日も暑そうですねぇ」

アルバイトの高見紗菜ちゃんが、窓の外の陽射しを見ながらそう言った。

ここ花屋カフェFlowerparcは通りに面した全面がガラス張りになっていて、陽当たりもよい。

強い陽射しは通りに並ぶ街路樹が和らげてくれるが、さすがにこの頃は眩しすぎてロールカーテンを窓の半分ほどまで降ろしていた。

「ああ、やだやだ。またこの陽射しのなか大学まで行かなくちゃいけないのぉ」

「良かったら日傘貸しましょうか?」

項垂れる彼女に、私、三森綾はくすくす笑いながら日傘の提案をしたけれど。

「必須アイテムですよ!当然持ってます!それでも暑いんです」

と、再度行きたくないアピールをした。

確かに陽射しは防げても体感温度は余り変わらないかもしれない。

アスファルトからの照り返しは直撃なわけだし、大学までそれほど遠くなくても間違いなく汗だくにはなりそうだ。

紗菜ちゃんは、近くの女子大生らしい。

講義の無い時間帯を選んで、割とまめにシフトに入ってくれている。

作業台で撮影用の花束を作りながら話していると、紗菜ちゃんが手元を覗き込んでくる。

「スィーツプレートとセットのミニブーケですか?」

「そう。季節も変わるしそろそろ新しいパターンにしましょうかって、ことになって。可愛い?」

今作っているのは定番のガーベラの花
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    今は、その時間を一瀬さんのブーケ作りの特訓に充てているわけだけど。「……綾ちゃん。にやけたまんまで自分の世界に浸るのやめてくれない」若干冷やかに聞こえる片山さんの声で、はっと我に返った。いつのまにか彼の存在を忘れて、一瀬さんとの宝物の時間に浸ってしまっていたらしい。「べ、別に浸ってません、ちょっと思い出してただけです」とワザとらしい咳払いをして言い訳すると。「いいけどねー」と拗ねた顔をして、片山さんは車を路肩に寄せる。車はもう、家の真ん前まで着いていた。「さっさと木端微塵に粉砕してくれないあんなずるい大人のどこがいいの?」「……色々酷いですよねその言い方」苦笑いをすると、「だってそうでしょ」と肩を竦めて返される。確かに、ずるいし。酷いし。こんな風に私が気持ちを温めていても、もしかしたら花は咲かないのかもしれないけれど、私はわかってしまったのだ。最初私は、雪さんの方が過去に捕らわれていて一瀬さんはそれを受け止める優しい人なのだと思ってた。本当は、そうじゃない。一瀬さんも同じように、もしかしたら雪さん以上に、過去との決別を惜しんでいるんじゃないかって。「不甲斐ないオッサンだと思うけどな」「情が深いんですよ」だって素敵だと思う、悔しいけど。それだけ、大切に誰かを想える愛情の深い人なんだ。「うわぁ、恋って盲目」からかわれたっていいもん。私は、そうすると決めたんだから。「それじゃ、送っていただいてありがとうございました。……帰り、大丈夫です?」「平気だよ、思ったほど積もりそうではないし」微笑んで頷いた片山さんに、ぺこりともう一度お辞儀をしてドアを開けた。雪はさっきまでよりも少し小ぶりの、粉雪になっていた。バタン、とドアを閉めるとすぐに、助手席の窓ガラスが降りて片山さんが助手席側まで身体を乗り出して、窓から私を見上げていた。「綾ちゃん、俺来月からもう店にはいないけど……」「えっ? 四月からじゃないんですか?!」驚いて私も身体を屈ませた。車のドアの窓に、白い手袋の手をかけて車内を覗き込む。「その予定だったんだけどさ、色々準備もあるし、向こうの店も早めに来て欲しいっていうからさ。三月一日から行くことになった」「三月一日って……もう来週じゃないですか!」「後輩にちゃんと引き継ぎは済ませてあるからさ、綾ちゃんの大事

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